減塩は高血圧症の予防にならない

減塩による血圧低下効果を167の試験で調査したところ、血圧低下は、正常血圧の白人で1%、高血圧患者では3.5%と微々たるもので、ほとんど無意味でした。さらに、悪いことに、血中レニン、アルドステロン、アドレナリンが増加し、血中コレステロール値の2.5%増加とTG7%の増加が認められました。
血圧低下の値が少なすぎるだけではなく、レニンやアルドステロンなどが上昇したのでは逆効果と言えます。
結果をもう少し詳しく見ますと。
白人
収縮期血圧(SBP)-1.27 mm Hg (95% confidence interval (CI): -1.88, -0.66; P = 0.0001)
拡張期血圧(DBP)-0.05 mm Hg (95% CI: -0.51, 0.42; P = 0.85)
黒人
SBP -4.02 mm Hg (95% CI: -7.37, -0.68; P = 0.002)
DBP -2.01 mm Hg (95% CI: -4.37, 0.35; P = 0.09)
アジア人
SBP -10.21 mm Hg (95% CI: -16.98, -3.44; P = 0.003)
DBP -2.60 mm Hg (95% CI: ?4.03, -1.16; P = 0.0004)
血漿レニンの大幅な増加、血漿アルドステロン、血漿アドレナリン、血漿ノルアドレナリン、コレステロールは2.5%増加と、トリグリセリドは7%増加しました。
最も低下したアジアでも約10mmHgの低下です。しかし、全体に血漿レニンが大幅に増加したことは逆効果と言えます。
Niels A. Graudal, Thorbjorn Hubeck-Graudal, Gesche Jurgens
Effects of Low-Sodium Diet vs. High-Sodium Diet on Blood Pressure, Renin, Aldosterone, Catecholamines, Cholesterol, and Triglyceride (Cochrane Review)
American Journal of Hypertension (2012). doi:10.1038/ajh.2011.210
そもそも、本態性高血圧には2種類のタイプがあります。1つは、「食塩感受性タイプ」、もう1つは、「レニン-アンジオテンシン系亢進タイプ」です。
食塩感受性のない人に減塩をさせても無意味です。最近の研究では、逆に、低ナトリウムは心血管イベントなどの増加により死亡率の上昇を引き起こします。
参考までに、以前書いた「食塩摂取量が少なくても心血管イベント増加2011.11.23. 」の記事から紹介します。
ナトリウム排泄量による心血管イベントのグラフは、J型の曲線を描きます。5g付近が最も少なく、これは食塩の摂取量にしますと1日13g程度が最もリスクが少ないことになります。
従来の食塩摂取量の基準や常識は根本的に書き変えなければなりません。
さらに、レニンの増加は、腎血流量の低下によってナトリウム再吸収を増加させて血圧を上昇させます。
念のため付け加えますと、食塩感受性の高い高血圧患者や原発性アルドステロン症では、食塩摂取によって交感神経活動が亢進(メカニズムは、面倒なので省略)しますので、血圧は上昇します。

J. O'Donnell, et al.
Urinary Sodium and Potassium Excretion and Risk of Cardiovascular Events
JAMA. 2011;306(20):2229-2238. doi: 10.1001/jama.2011.1729
*心血管疾患の無い3,681名を対象にして、中央値で7.9年フォローした研究では。
★ナトリウム排泄量別の死亡率
・the low (mean, 107 mmol):4.1% (95% confidence interval [CI], 3.5%-4.7%)
・medium (mean, 168 mmol):1.9% (95% CI, 1.5%-2.3%)
・high excretion group (mean, 260 mmol:0.8% (95% CI, 0.5%-1.1%)
(単位はミリモルです)
ナトリウムが多いほど、死亡率は低下しました。
★高血圧の発症率では(2,096名、6.5年間フォロー)
・the low:187 (27.0%; HR, 1.00; 95% CI, 0.87-1.16)
・the medium:190 (26.6%; HR, 1.02; 95% CI, 0.89-1.16)
・the high:175 (25.4%; HR, 0.98; 95% CI, 0.86-1.12)
( ナトリウムを食塩量で換算しますと:2g=5.1g , 6g=15.2 g, 8g=20 g )
高血圧の発症率でも、高ナトリウムが最も低く、ハザード比も1を僅かですが切っています。
・収縮期血圧とナトリウム排泄量は、合併症の減少・生存率改善に関連しない。
・ナトリウム尿排泄量低下は、心血管合併症高度リスクの予測因子となる。
Katarzyna Stolarz-Skrzypek et. al.
Fatal and Nonfatal Outcomes, Incidence of Hypertension, and Blood Pressure Changes in Relation to Urinary Sodium Excretion
JAMA. 2011;305(17):1777-1785. doi: 10.1001/jama.2011.574

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