塩を摂りすぎると高血圧になる?

国際的に減塩運動が盛んに行われており、減塩すれば生活習慣病なり胃ガンの予防になると、声高に叫ばれて久しいです。そして、近年の日本人成人の平均食塩摂取量は男12g、女10gですが、厚生労働省は、これを25%削減し、男9g、女7.5gにせよと言っています。なお、国際的には、推奨6g以下、目標5g以下、とされています。
なぜにこんな厳しい基準が設定されたのでしょうか。そして、これは正しいでしょうか。

塩と高血圧の関係が最初に示されたのは1954年のことで、ダールという学者が世界5地域の食塩摂取量と高血圧者率を示した簡単な報告です。
これによりますと、次のとおりです。(図からの読み取りにつき、数値は概数です。)
食塩摂取量 高血圧者率
日本・東北地方 27 g/日 40 %
日本・九州地方 17 22
アメリカ・北部 11 7
太平洋・マーシャル諸島 8 6
北極・エスキモー 4 0

なお、地域間を比較する場合には、統計学的に標本の足並みが揃っていなければなりませんが、このデータは標本数が少なすぎるものがあったり、性別・年齢の偏りがあって、信頼性が弱いものなのですが、大雑把な傾向をつかむことは可能です。
戦後間もなくのことであり、東北地方の人は食塩摂取量が1日当たり30g程度であったことは確かであり、高血圧者率(40%は?)も高かったことは事実です。そして、九州地方は相対的に食塩摂取量は低く、高血圧者率も低かったのも事実ですからね。
また、エスキモーの食塩摂取量もうなづけますが、彼らに高血圧者がいないこと(標本数は20)と、食塩を摂らないこと(4gは動物の血液などからで食塩はゼロ)とは無関係で、これは狩猟採集民に共通することであって、毎日体をよく動かせば血圧は正常に維持される傾向が強いからです。なお、この知見は、当時は知られていませんでした。

その後、この種の疫学調査が幾つも行われたのですが、統計学的に不備なものが多く、そこで、1982年に国際心臓学会連合が、統計学的に意味がある手法で国際的な統一調査をすることにし、1988年にインターソルト・スタディーを発表しました。
世界32か国の52地域、10,079人を対象としたもので、1地域の男女(20~59歳)各100人以上としています。なお、食塩摂取量は、これと因果関係が深い尿からの排泄量をとっています。
その結果は、ダールの報告どおりのものが期待されたのですが、たしかに、文明からほぼ隔絶された地域(狩猟採集民)では、食塩摂取量、高血圧者率ともに、ゼロか極めて小さな数値であることが分かったものの、文明化された地域(食塩が流通している地域)にあっては、ほとんど相関関係が見い出せない結果となってしまったのです。

翌1989年に、インターソルト・スタディーの結果について国際的な討論会が開かれたのですが、減塩運動無意味派と推進派が対立し、推進派はわずかな相関関係でもって、そして、その後にデータの評価見直しを行って相関関係を見い出し、減塩運動は続けるべしとして今日に至っています。なお、無意味派は、評価見直しは恣意的であり、相関関係は認められないと主張し、平行線をたどっている状態にあります。

以上が学者先生方が行ってこられた調査研究の概要ですが、これをどう評価するかです。政府は、そして国際的にも、厳しい減塩運動をこれが正論であるとばかり、運動を展開することに熱心で、別途記事にしました「塩を摂りすぎると胃ガンになる?」と、全く同じです。そして、食塩のことをよく知っている循環器系の専門医は、高血圧予防に当たっては 塩と高血圧は明確な相関はないが、ガンの専門家によると塩と胃ガンは相関があるとのことだから、やっぱり減塩したほうがいいよ。 となり、同様にして、がん専門医は、がん予防にあたっては、 塩とガンは明確な相関はないが、高血圧の専門家によると塩と高血圧は相関があるとのことだから、やっぱり減塩したほうがいいよ。 となります。
ここまでくると、あきれて物も言えないです。
高血圧も胃ガンも、食塩摂取量と関係ありとする主張の出所は、戦後間もなくの東北地方の古い古い調査データです。その当時の東北地方の食生活は、白米と塩辛い漬物の多食が顕著なものであり、現在とは丸っきり違っていました。そうした食なりそれ以外の食生活あるいは食以外の生活習慣が起因して、高血圧や胃ガンが多かったのでしょう。それが、今日では食塩摂取量は半減され、生活習慣全般に平均的な日本人に近いものとなり、高血圧も胃ガンも日本人の平均と差がなくなっているのです。
今でも食塩摂取量が1日当たり30g程度と高ければ、減塩も意味があるかもしれませんが、半減された今日にあっては、調査研究するのは、15gではどうか、10gではどうか、5gではどうか、という食塩摂取量での比較で行うべきでしょうね。

さて、現在の食塩摂取量をさらに下げて、どれだけの効果が得られるか。
これについては、減塩運動推進派の学者は、「食塩摂取量を生涯にわたって6gにすれば、血圧は9mmHg下げられる」などと言っています。
これに対しては、 たったの9、あっ、そう。 と受け流せばよいでしょう。
そもそも高血圧で注意せねばならない数値は幾つか、これが実におかしなものになっています。以前は160/95mmHgだったのですが、2000年に140/90に改定され、更に2004年には老人以外は130/85にされました。
これは厳しすぎる基準です。長らく脳外科専門医をされていた岡本裕氏は「血圧が常時200を超えなければ、血圧と脳出血との相関はない。」と言っておられますし、「血圧が高いのは、それなりにちゃんとした理由があって、血圧を高く保つことで、生体の機能をうまく維持しているわけでして、何の脈絡もなく薬で血圧を下げてしまっては、体にいいわけがないに決まっています。」ともおっしゃっています。
(詳細は過去記事:2010.10.23「おいしい高血圧患者(その1)」をご覧ください。左サイドバーのカテゴリー「高血圧」の記事の中にあります。)
こうしたことからも、食塩摂取量を気にする必要はなく、塩味を楽しんでいただいてよいのです。食塩は必須の栄養素でして、食塩が欠乏すると様々な疾患が生じますし、何よりも、やる気が失せ、元気がなくなるのです。このことについては、近日、別途記事にします「減塩し過ぎるとどうなる?」をご覧ください。

ここまで総論的なことを述べてきましたが、これより各論的なことについて少々触れておきましょう。
1954年のダールの食塩摂取量と高血圧者率の相関が注目されて、1962年には動物(ラット)実験で、多量に食塩を与え続けると、なかには血圧が上がるものがいることが判明しました。これを、「食塩感受性」というのですが、これが、人についても言えることが1978年に発表され、1980年に同様な結果が出て、確認されています。
その後、「食塩感受性」について数多く調査されているようですが、どの程度をもって「食塩感受性あり」とするのか定義が定められておらず、定性的なことは言えても定量的なことは言えず、「食塩感受性」のある人の割合はいまだはっきりしていません。
これは、人によって、少量の増加に敏感に反応する人もいれば、一定程度以上でないと反応しなかったり、また、血圧の上がり方もまちまちであったりするからでしょう。
なお、はっきりしませんが、「食塩感受性」がない人の方が多いようです。

なぜに「食塩感受性」が生ずるかについては、小難しく学術的に説明されたりしていますが、次のように考えれば、まず間違いないでしょう。
食塩を量多く摂取すれば、吸収されて血液に入り、それが細胞外液に染み出して浸透圧を上げることになりますから、必然的に血管が圧迫され、心臓は必要な血流を確保しようとして血圧を上げざるを得ないことになります。これが自然の理です。
でも、血圧が上がらない方が数多くいらっしゃいます。これは、血液中の食塩濃度が高まれば、不要なものは早速腎臓で濾過されて排出されてしまうからでしょう。
こうしたことから、「食塩感受性」が高い人は、腎臓の濾過機能が弱いと言えましょう。
自分は「食塩感受性」があるのかないのか、それが高いか低いかは、自分では調べられない、あるいは、勝手に調べないでくださいと言われていますが、これは自分で調べればよいです。毎日定期的に血圧を測っておられる方であれば、塩っ辛い物を食べたときに血圧がどう反応するか、減塩したらどうなったか、容易に結果が出ます。もっとも、1回で判定することはできません。別の要因で血圧が変化することは幾らでもありますから、最低1週間はチェックし続ける必要がありましょう。

次に、減塩生活に入ったら血圧はどう変化するかという臨床データがあります。
正常血圧の大人の場合、ほとんど変化しない方もあれば、どれだけか(10~15前後)は血圧が下がる方が多い反面、血圧が少々(10程度)上がってしまう方も少なからずみえます。子供の場合も、数値幅は狭まりますが、傾向は同じです。
高血圧の大人の場合は、血圧が下がる(15ダウンをピークに正規分布)方が多くなりますが、それでも、変わらない方や、逆に高くなる方もどれだけかいらっしゃいます。
なぜだか分かりませんが、 減塩によって血圧が上がる という奇妙な現象が少なからず発生するのですから、心配になります。
本稿で、減塩は必要ないと申しましたが、やはり自分の体が心配だからこの際減塩しようとお考えの方は、毎日定期的に血圧測定しながら減塩食になさってください。

最後に、血圧は少々高くっても何ら問題ないと申しましたが、注意せねばならないのは、普段の血圧から上がったり、下がったりする変動値です。
一過性のものであれば問題ないのですが、それが1週間、2週間と続けば、体の中で何か異変が起きていることになります。原因を追究せねばなりません。
たいていは生活習慣に起因しますから、それを探り出し、是正する必要があります。
お医者さんで検査を受けても、原因が分かることは、まずありませんから、自分で探し出すしかないです。もっとも、血圧が常時200にも上がれば別でしょうけどね。
そういう小生、普段の血圧は110~120で安定しているのですが、今冬、久し振りに血圧を測ってみたら140程度に上がっていて、数日経っても変化なし。
そこで生活習慣の分析。考えてみるに、 これは、きっと、最近体を動かさなくなり、かつ、連日過食していたのが原因であろう。体重も急に1キロ増えたし。 と反省し、努めて体を動かし、過食を控えたところ、半月で減少し始めました。
自分で分析したとおりの原因であったのです。
高血圧を解消するには、やっぱり「体を動かし、腹八分にする」以外になさそうです。
なお、もっとも効果的な高血圧解消方法は、左サイドバーのカテゴリー「高血圧」の中にあります過去記事「ゆっくり走って治す高血圧」です。ご一読ください。
運動して汗をかき、塩を舐めて、イキイキ元気! です。

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