肺高血圧症…最近の知見

2012年のスタートして穏やかな日々が続いています。
このブログを肺高血圧症をキーワードとして検索、閲覧される方を多く見受けます。
新年の幕開けにはこの肺高血圧症について紹介します。
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はじめに
肺高血圧症の分類、治療に関するはじめての国際会議は、1973年のGeneva会議まで遡る。以後、1998年のEvian, 2003年のVeniceを経て、2008年の米国Dana pointで第4回の国際会議が開催され、肺高血圧症の分類。治療について新たなエキスパートコンセンサスが提唱された。その間、肺高血圧症の治療としては、1990年代にepoprostenolの投与がはじまり、2000年代に入ってbosentan, sildenafilなどが認可され、徐々に治療薬の選択肢も増えてきている。さらに、近年ではこれらの併用療法の有効性も報告されている。
Ⅰ.治療ガイドライン
Ⅱ.プロスタサイクリンおよびその誘導体
1.epopeostenol 2.treprostinil, iloprost 3.beraprost
Ⅲ.エンドセリン受容体拮抗薬
1.bosentan 2.sitaxsentan, ambrisentan
Ⅳ.フォスフォジエステラーゼ5阻害薬
1.sildenafil 2.tadalafil
Ⅴ.併用療法
おわりに
近年の多くの無作為化試験の結果(表2)、エビデンスに基づいたPAHに対する治療が推奨され行われている。PAHは、その疾患の希少性から、大規模でかつ生存率の評価を含めた長期間にわたる臨床試験を行うには困難を伴うが、今後さらなる良質な臨床データの蓄積が期待される。また、多くの臨床試験で主評価項目として用いられている6分間歩行距離の悪化が予後不良因子であることは報告されているが、その改善と生存率の向上には明らかな相関は示されていない。今後は運動耐容能の改善に加えて、より詳細にわたる評価項目を設定し総合的に効果判定をすることが必要と考えられる。一方、近年のメタアナリシスによって、前述したような治療戦略がPAH奨励の生存率の向上に寄与していることが示されている28)。PAHの治療成績が確実に向上していることは疑いようもなく、今後も新規薬剤の開発などのさらなる進歩が待たれる。
28)Galie N, Manes A, Branzi A, et al. A meta-analysis of randomized controlled trials in pulmonary arterial hypertension. Eur Heart J 30:394-403, 2009
出典
長岡鉄太郎、栗山祥子、鳥羽慶栄(他). 特集肺高血圧診療の新展開-肺動脈性肺高血圧症の治療. 呼吸 28:1095-1101, 2009
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座談会でまとめにくいので、概要だけを紹介します。
肺動脈性肺高血圧症の治療を最前線でされている先生方の談話です。薬についても具体的に検討されていて読み応えがあります。
司会 佐藤徹(杏林大学医学部)
京谷晋吾(京谷医院) 松原広己(独立行政法人国立病院機構岡山センター)
国枝武義(国際医療福祉大学臨床医学研究センター)
[座談会] 肺高血圧症 肺高血圧症治療の進歩-診断/治療戦略
治療学 44: 922-929, 2010
診断
□治療法選択に必要な重症度の判断
□肺静脈閉塞症をどこで疑うか
□重視すべき指標は何か
□6分間歩行距離測定は有用か
治療戦略
□どこに治療目標を設定するのか
□経口剤から静注薬へ
□各種薬剤の使用の留意点
------------2012/1/17追記
上記の座談会は学ぶことがたくさんあります。そして人によって視点や得たい情報が違いますので難しいのですが、私が知りたいと思っていたことを紹介します。
p.925 □経口剤から静注薬へ
佐藤 治療の流れについて、お願いしたいと思います。
国枝 原発性肺高血圧症(PPH)は非常に少ない病気で、年間発生率は人口100万人に1~2人という割合です。内服薬が使えるようになって、服薬中の患者は現在日本に約4000人おられます。全員がPHAかというと必ずしもそうではありませんが、とにかく肺高血圧があれば薬剤が即座に使用できるようになりました。明確な診断により始めにしっかりした治療方針を立てる必要がありますが、PHがあればまず安易に経口薬を処方するといった現状があります。
私たち専門医としては、肺高血圧に関心が高まってきているのは良いことですが、肺疾患でも心臓疾患でも終局的には肺高血圧になるので、なんでもPAHとされては困ります。だから、今後はまず右心カテーテルを行って肺動脈圧を測定し、その原因の精査を心エコーの画像診断などを多角的に行って、心臓疾患あるいは肺疾患を診断あるいは除外していくのがよいのではないでしょうか。どうしても、PHの診断上のしばりは増えると思います。
京谷 治療戦略として、中等症以下の場合、経口剤中心の治療がよいと思います。すると、診断が少し不十分で、本来はあまり適応がないはずの症例にまで使われてしまうという懸念は確かにありますが、日本全体でみれば、肺高血圧症への関心が高まり、PHの存在を広くスクリーニングして、診断していただけるようになってきます。---------
確かに肺高血圧を見逃されて苦しい思いもされた方達もいらっしゃることでしょう。
肺高血圧を伴う疾病の鑑別診断は難しいようですが、疑いを持ったら、適切な検査や慎重な診断のもとで患者に告知してほしいものです。診断が確定しないまま薬を処方される場合でも、「わからない」ということを正直に話されて、服薬のメリット、デ・メリットをきちんと伝える努力をして頂きたいものです。

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